
人月見積もりが崩壊する:AIがコードを書く時代の「見積もりの新常識」
受託開発の世界には、昔から便利な“共通言語”があります。 それが 人月(にんげつ)──「1人が1か月働く分の工数」という見積もり単位です。 ところが今、AIがコードを書く時代になって、この人月が現場で静かに壊れ始めています。 もっと正確に言…

EEG Editorial
Content Team
私は受託開発会社を25年以上経営してきました。 当初は「納期を守って、品質よく作る」ことが正義でした。そこに疑いはありません。実際、それで会社は伸びました。 でも今、AIの普及で“実装コスト”が目に見えて下がっています。 コードを書く速さは、個人差よりも「AIをどう使うか」「要件がどれだけ明確か」の差になりつつある。つまり、受託の価値の中心が“実装力”から“成果を出す力”へ移っているのです。 この…
私は受託開発会社を25年以上経営してきました。
当初は「納期を守って、品質よく作る」ことが正義でした。そこに疑いはありません。実際、それで会社は伸びました。
でも今、AIの普及で“実装コスト”が目に見えて下がっています。
コードを書く速さは、個人差よりも「AIをどう使うか」「要件がどれだけ明確か」の差になりつつある。つまり、受託の価値の中心が“実装力”から“成果を出す力”へ移っているのです。
この変化の怖さは、技術の話ではありません。経営モデルそのものが揺さぶられることです。
• 工数=売上、稼働率=正義、増員=成長
この前提が崩れ、「作業の提供」は価格競争に巻き込まれます。
だからこそ、経営方針を変える必要がある。
「作る会社」から「成果を出す会社」へ。今日はその転換を、経営視点で整理し、現場の変え方(評価制度/営業資料/採用要件)まで踏み込みます。
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AIで開発が速くなる。これは皆が言っています。
しかし本質は「速くなる」ではなく、実装が“差別化になりにくくなる”ことです。
これまで受託が成立していた理由は、ざっくり言えばこうでした。
• 要件を理解して設計できる人が限られていた
• 実装できる人が限られていた
• 品質を担保できるチームが限られていた
AIはこのうち、特に「実装」のボトルネックを崩します。
すると市場はこうなります。
• お客様は「同じものをもっと安く作れるはず」と考える
• 受託会社は「工数単価」で比較される
• “作れる”だけでは勝てない
ここで厳しい現実があります。
受託の値下げ競争は、会社の体力を確実に削ります。
利益が薄くなる → 教育投資が減る → 品質が落ちる → さらに値下げ圧力。
この負のループから抜けるには、価値の出し方を変えるしかありません。
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「成果を出す」と言うと、きれいごとに聞こえるかもしれません。
私はこれを、もっと現実的に定義します。
成果=お客様の業務・売上・コスト・リスクの指標が、継続的に改善されること
つまり、成果の単位は「画面」でも「機能」でもなく、KPIです。
• 受注率が上がる
• 問い合わせ対応時間が短くなる
• 在庫欠品が減る
• 審査のリードタイムが短縮する
• 障害が減って機会損失が減る
これをやり切る会社になると、同じ開発でも意味が変わります。
【ゴール】
作る会社: 納品
成果を出す会社: KPI改善(定量)
【進め方】
作る会社: 要件→実装→検収
成果を出す会社: 仮説→検証→改善サイクル
【価値の源泉】
作る会社: 実装工数
成果を出す会社: 業務理解・運用設計・改善力
【価格】
作る会社: 工数単価
成果を出す会社: 価値(成果)に紐づく
ここまで言うと「じゃあ、受託じゃなくてコンサルでは?」と言われます。
半分正解です。でも私はこう言い直します。
“開発会社が、成果に責任を持つ領域まで踏み込む”
これが転換の本体です。
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ここからが本題です。私は転換を4つに整理しています。
AIがコードを書く時代に残る差は、シンプルです。
• 何を作るべきか(Why / What)
• どう運用し、どう改善し続けるか(How / Operate)
これを決めるには、業務理解が必要です。しかも“ヒアリングで聞いた要件をまとめる”レベルでは足りない。
私が現場に求めるのは、プロダクト思考での業務理解です。
• 現場の業務フロー(例外・例外・例外)を把握する
• KPIツリーを作る(どの数字が成果か、どこがレバーか)
• 「機能」ではなく「意思決定」を設計する
• 仮説を立て、最小コストで検証する(PoCの乱発ではなく)
具体例(よくある受託の失敗)
「受発注システムを作ってください」→ 画面と機能は揃った
でも成果が出ない。なぜか?
• マスタ整備ができていない
• 現場の例外処理が残り、Excelが生き続ける
• 受注後のリードタイム改善に繋がらない
成果を出す会社は、最初にこう聞きます。
• “一番困っているのはどの工程か?”
• “リードタイムのどこが詰まっているか?”
• “例外は何種類あるか?”
• “現場がExcelを使う理由は何か?”
• “成功指標は何か?(例:リードタイム◯%短縮、差し戻し◯%減)”
この質問ができる会社は、AI時代でも価格競争に巻き込まれにくい。
なぜなら、お客様は「作業者」ではなく「伴走者」を必要とするからです。
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受託会社が内製化を恐れている限り、未来は苦しい。
私は逆に、内製化支援は次の主戦場だと思っています。
理由は簡単で、企業はこう考えています。
• 変化が速いから、システムを自分たちで変えたい
• でも人材も型もない
• そこを支援してくれるパートナーが欲しい
内製化支援とは「引き継いで終わり」ではありません。
価値が出るのはここです。
• 参画初期にアーキ・運用・セキュリティの“型”を作る
• 共同開発(ペア開発・モブ・レビュー)で育てる
• ドキュメントを“残すために”ではなく“回すために”設計する
• チームが回り始めたら、自社は高付加価値領域へ移る
ここで受託会社の役割は「手を動かす人」ではなく、“開発組織の立ち上げ屋”に近づきます。
内製化支援ができる会社は、実は継続収益も作れます。
内製化した後も、以下は残るからです。
• 技術負債の返済
• 監視・運用設計
• SRE・セキュリティ
• データ基盤・分析
• プロダクト改善支援
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AIで最も過小評価されがちなのが、ここです。
AIは実装を速めますが、運用と改善は勝手に回りません。
成果が出る会社は、最初からこう設計します。
• ローンチ後の改善サイクル(2週間・4週間など)
• 計測(ログ/イベント設計/BI)
• 障害対応と再発防止の仕組み
• 問い合わせ対応や業務運用の体制
そして契約も変える必要があります。
工数請求一本だと、改善が“追加費用”になり、動きが止まるからです。
おすすめはハイブリッドです。
• Discovery(業務理解・KPI設計):固定+短期
• Build(構築):マイルストーン
• Operate/Improve(運用改善):月額リテイナー+成果連動(可能なら)
これを提案できる受託会社は、「見積りの比較」から降りられます。
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受託が工数商売から抜けられない最大の理由は、ここです。
毎回、知見がプロジェクトに閉じて消える
AI時代は、資産化のやり方も変わります。
たとえば以下は“資産”になります。
• 業界特化のテンプレ(業務フロー、KPIツリー、要件の聞き方)
• 設計・運用の標準(監視、権限、ログ、SLO)
• 使い回せるコンポーネント(認証、通知、帳票、バッチ基盤)
• 生成AIを組み込んだ社内開発基盤(ガイド、プロンプト、レビュー規約)
資産化が進むと何が起きるか。
• 同じ売上でも利益率が上がる
• 新人でも成果が出しやすい(属人性が下がる)
• 営業が「事例」と「型」で売れる
• 内製化支援もスケールする
私はこれを、経営指標として持つべきだと思っています。
• 資産利用率(案件のうち何%が型を使っているか)
• 再利用による短縮工数(実績)
• ナレッジの更新頻度(資産が死んでないか)
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「成果を出す会社」に変わるのは、現場の気合いでは無理です。
経営が変えるべきポイントは3つあります。
業務理解は、広く浅くでは勝てません。
まず「どの業界/業務に強い会社になるか」を決める。
• 例:物流の配車/倉庫、製造の工程・品質、金融の審査、医療の予約・レセプト…
すべてはできない。絞るから資産化できる。
稼働率が悪いと言われ続けた現場は、「成果」ではなく「時間」を稼ぎます。
これを変えるには、評価指標から変えるしかありません(後述します)。
「同じものなら安い方」で負けるなら、同じものを売らない。
成果を売る。改善を売る。型を売る。
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ここからは、私が本当に効くと思っている“実務”です。
スローガンを変えても現場は変わりません。制度・道具・人を変えます。
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まず、評価制度が旧来のままだと100%失敗します。
典型はこれです。
• 稼働率が高い人が評価される
• 炎上案件で残業した人が評価される
• “要件の穴”を指摘する人より、黙って実装する人が評価される
成果を出す会社の評価は、こう寄せます(例)。
評価配分の例(職種共通の土台)
• 40%:顧客成果(KPI改善、現場定着、CS)
• 20%:品質・信頼性(障害、再発防止、運用設計)
• 20%:チーム成果(育成、レビュー、連携)
• 20%:資産化・学習(テンプレ化、ナレッジ共有、再利用)
そして重要なのは、“数値化できるところは数値化する”ことです。
• リリース後◯ヶ月での定着率(利用率)
• 問い合わせ件数の減少
• 手戻り率
• 再発防止の完了率
• 資産の採用回数
評価制度は「会社が何を正義にするか」の宣言です。
AI時代は、正義を“実装”から“成果”へ移さないといけない。
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営業資料に「機能一覧」「画面一覧」「工数内訳」が並んでいる限り、比較対象は“単価”になります。
勝てる資料は、構成が違います。
提案書の骨子(おすすめ)\
AIが書けるのはコードです。
でもAIは、現場の痛みを理解して「何を変えるべきか」を決めてはくれません。
採用要件を変えるべきです。
エンジニアも含め、以下が強い人が効いてきます。
採用で見たい力(職種横断)
• 問題設定力:課題を構造化し、真因に当てられる
• コミュニケーション:現場・経営・ITの翻訳ができる
• データ感度:指標で語れる(KPI、ログ、分析)
• 仕組み化:属人化を嫌い、型に落とす
• AIリテラシー:使うだけでなく、品質・リスクを理解する
職種として増やしたい(または育てたい)
• 業務アナリスト(BA)
• プロダクトマネージャー(PdM)
• UXリサーチ/サービスデザイン
• SRE/運用設計
• データエンジニア/アナリスト
受託会社は「エンジニアだけの会社」だと、成果責任を取りに行けません。
チーム編成そのものを変える必要があります。
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最後に、変革の現実的な進め方です。
私のおすすめは「小さく始めて、勝ちパターンを資産化して広げる」です。
最初の90日でやること(最小構成)
• 注力領域(業界/業務)を1〜2つに絞る
• Discoveryメニューを作る(KPI設計・業務分析・改善計画)
• 営業資料を“成果型”に刷新(最低1本の型)
• パイロット案件を1つ選び、運用改善まで責任を持つ
• 資産化の仕組み(テンプレ置き場・レビュー会)を作る
3〜6ヶ月でやること
• 評価制度をパイロットチームから変える
• 内製化支援のオプションを用意(教育・ガードレール)
• 運用改善の月額契約を標準にする
• 事例を作り、提案で再現する
6〜12ヶ月で狙う姿
• “成果が出る型”が3つ以上ある
• 資産の再利用で利益率が安定する
• 内製化支援案件が継続収益の柱になる
• 採用が「業務×プロダクト」志向に変わる
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私は受託開発を悲観していません。
むしろ、AI時代は“良い受託会社”にとって追い風です。
• ただ作るだけの会社は、淘汰される
• でも、成果を出せる会社は、より強くなる
• なぜなら企業は、変化に対応するパートナーを必要としているから
「作る会社」から「成果を出す会社」へ。
これはスローガンではなく、経営モデルの転換です。
そして転換の要点は4つでした。\